○簡易プロット

主登場人物:
・蘇我屠自古
・西行寺幽々子
・豊聡耳神子
・他(物部布都、霍青娥、魂魄妖夢等必要に応じて自由に)

テーマ:『亡霊』『自然体』『欲望』
・亡霊についてメモ
 死者の霊のうち、死んだ事に気づいていないか、死を認めたくないという念が強すぎると、成仏できずに亡霊となる事がある。亡霊は幽霊とは違い、生きていた頃の姿をとり、触れる事も話す事も出来て、傍目には人間と区別が出来ない。体温も低くなく、また、人間以外の生き物から亡霊になる事もない。
 多くの亡霊が河を渡らずにそのまま顕界に留まるか、冥界や地獄に渡ってしまった者である。そのままでは輪廻転生する事は絶対にない。
 一旦亡霊になってしまうと、目的を成就するか、自分の肉体が供養されるまで成仏する事はない。
(以上、東方求聞史紀より抜粋)



 神霊異変収束後、霊廟組の面々はとにもかくにも幻想郷に受け入れられた。
 無理に、「妖怪を滅ぼす」という当初の目的に固執する必要も無くなり、霊廟組は幻想郷にて新たな生活を送り始めた──が。

 霊廟組の一人、蘇我屠自古には、一つだけ不安事があった。

 ”亡霊”として復活した自分と、尸解仙として復活した物部布都、そして豊聡耳神子。

 屠自古は、神子は全ての欲望から解き放たれた存在だと思っている。そして尸解仙となった今、神子は、”無為自然”を至上とする道教に於いて、欲望から解き放たれた超人──即ち、”仙人”そのものとなってしまったと言える。
 対して自分は、”亡霊”。愛執も恨みも持ったまま、欲と業に囚われて復活した自分。そんな自分が相変わらず神子の傍にいるというのは不適切ではないか、と思い初めてしまった。
 霊廟を飛び出て、屠自古は姿を消す。

 当てもないまま彷徨う屠自古がふと思うのは、神霊異変で出会った、同じく亡霊である幽々子のこと。
 飄々として何を考えているのか分からないが、彼女は自分達霊廟組の目的を察し、自分の従者、あるいは知り合いの異変解決家を派遣して、それを阻止しようとしていた節がある。
 屠自古は、幽々子がただならぬ人物であることに気付いていた。
 ”天衣無縫の亡霊”とも呼ばれる彼女は、一見して何の執着もあるようには見えない。例え本人の口から何と説明されようとも──。

 今や争う必要の無くなった相手。その幽々子に、屠自古は相談する。
 欲望から離れて、神子様にお仕えするにはどうすればいいのだろうか。
 結果として仙人になるどころか、亡霊として復活してしまった自分は、果たして神子に相応しい存在なのか、と。
 対して幽々子は、屠自古に問う。
 ”無為自然”を至上とする道教に於いて、そもそも”自然”とは何か。
 神子には欲望が本当に無いのか。死を恐れて道教に傾倒する──それは欲望であり、生への執着ではないのか。
 また、屠自古が本当に欲と業から解き放たれた時、それは亡霊としての”成仏”を遂げてしまうことになりはしないのか。それは神子の傍から離れてしまうことにならないのか。
 そもそも──今となっては、神子は本当に”仙人による世界の先導”を望んでいるのだろうか? 今神子が本当に必要としているのは、どんな姿になったとしても、屠自古(と布都)という大事な存在ではないのか、と。

 心配して探しに来た神子の顔を見て、屠自古は自分が必要とされていること、自分の居場所、存在意義がちゃんとあることに安堵する。