みことじ企画 ネーム

屠自古が消えた。
そのニュースに愕然とする神子。

幻想郷のさまざまなところを探すが、どうしても見つからない。

「私になにか不備でもあったのだろうか?」

悩む神子。

目を閉じ、過去を振り返る。

長い間眠り続けていた自分。
信じてくれた人の思い。
民の声。

目を開ける。現在の幻想郷の姿が見える。

鳥の声。
川のせせらぎ。
人の声。
風の音。

「たくさんの声が聞こえるのに、あなたの声が聞こえない」


夜。

布都と話をする神子。
憎まれ口を聞きながら、心配している布都。

「この地上のどこにも屠自古の声が聞こえない」
「・・・地上にいないのなら、地下なのでは?」

冗談のような答えが、本当の答えだった。


地霊殿。

表向きは間欠泉センターを運営している。

しかし、その莫大な財力の源は、実は非合法な裏カジノであったのだ!


熱気。
ぴりぴりとした熱気が肌を刺す。
空気が重いのは、地下だからというだけではない。
人々の欲が、欲望が、妬みが、喜びが、感情が。
全てが渦となってただよっているのだ。

村人たち・・・中でもたちの悪い村人たちが、目をギラギラさせながら鉄火場にいる。
神子はその横を通りながら眉をひそめる。

欲を聞ける彼女にとって、この村人たちのむき出しの欲はうるさすぎるのだ。

屠自古を探して歩く神子と布都。
その二人の前に、一人・・・否、一匹の猫が現れる。

赤い腹の黒猫。

二人はその後ろをついていく。

奥へ。
奥へ。

鉄火場の喧騒を離れ、静かに奥へと降りていく。

そこは雰囲気が違っていた。

静寂。

紅い炎よりも、青い炎のほうが熱を持つらしい。

この場は、青い炎だった。

「屠自古」

そこに、屠自古はいた。

神子の声は聞こえていない。
神子の声は届いていない。

屠自古は、真剣な趣で、手にしたカードを見つめていた。

テーブルの向こう側に座っているのは、地霊殿の主、さとり。

うず高く積まれたチップが、彼女の積み重ねた勝利の数を物語っていた。

「やってやんよ」

屠自古がカードをさらす。
さとりは口元に冷笑を浮かべて、「無駄ですよ」

心を読めるさとりに、かなう道理がない。

「屠自古」

近寄ろうとする二人を、人間形態になったお燐と、お空がとめる。勝負中に、外部のものが口出しすることはできないのだ。

はらはらしながら見つめる神子。
しかし、その視線は屠自古には届かない。

心が読まれる。
心が読まれる。
心が読まれる。

さとりと神子の能力は、似て異なるものだ。

神子は「欲」を見ることはできても、「思考」をみることはできない。
ポーカー勝負において、思考を読み取ることができるのは何よりも強力な武器なのだ。

屠自古が、最後の勝負に出る。

さとりが、笑う。

その時。

「屠自古!」

聞こえないはずの声が、屠自古に届く。
振り向く屠自古。
視線が合う。

「・・・っ」

さとりの様子が変わる。
心が、読めなくなる。

否。

読めないわけではない。
相変わらず、さとりの能力は続いている。

だが。

さとりは、相手の「思考」を読み取ることができる。
その能力をつかって、これまでどんな敵をも倒してきた。
人も、妖怪も、自分の「思考」に嘘をつくことはできないのだ。

しかし。

今、さとりの目の前に座っている幽霊は。
仏頂面で、喜んだそぶりも見せない幽霊は。

「やれやれ。別に、応援なんて必要ないのに」

と、ため息をついている屠自古は。

心の中は、神子への思いでいっぱいになっていた。
どんな思考も、すべてその思いにかき消されている。

バイクの音が、トラックの音でかき消されるように。

能力を使っているのに、相手の思考がわからない。
この日、はじめて、さとりは自分の実力のみで戦わなければならなくなった。

今まで、能力に頼りすぎていた。
これが、初めての真剣勝負。
今までの戦いは、ただ、無力な相手をなぶっているだけだった。

おそるおそる、カードをさらすさとり。

「おろかものめが!」

もはや、屠自古の敵ではなかった。



「どうしてこんな危険なことをしたのですか?」

神子の言葉に、憮然として答えない屠自古。
そばで布都がぎゃぁぎゃぁ騒いでいるものの、気にもとめない。

「・・・しかったからだよ」

さんざん問い詰められて、しぶしぶ答える屠自古。

「何がですか?」
「・・・別にいいじゃないか」

遠くを見つめる屠自古。
耳まで真っ赤な屠自古。

カジノでえた賞金を、独り占めしている屠自古。

「・・・ほかの誰にも、渡したくなかったんだ」

その手に持っているのは。

幻想入りした。

聖徳太子のお札。


おわりです!